やの東洋医学研究所

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2025年 新生やの針灸院準備フレンド


2024年 年末
還暦のやの東洋医学研究所同期会



免許取り立て 新人と ベテラン 募集

[募集要項]研究所は学校ではありませんので 4月入学 とかは全く関係ありません
このままではダメだと思った時に他の方がいなければ入学が決まります
私の友人に10年も研究会ばかり 参加して一度も 臨床に経験がない人もいます
ここだけの話 鍼灸学校が出来すぎたために 1パーセントの人も10年続かないと思います

経験1年美容鍼灸しかやった事は無い,誰にも打ったことがない。

それぞれ好きな時間でお手伝いからスタートですけど、1年たたないとデビューはさせません

経験者は、10センチ位の針は平気でお尻に打てるようになれば即戦力です

もうすぐ接骨院も取り締まりが厳しくなって、保険が使えなくなる時が来ます

日本の人口の50%は50歳以上ですので、みんな50歳から病気が始まります

美容をしたかったら、エステサロンで勉強すれば絶対に有効です

当院はテクニックだけが売りですので、何しろ私はぐじゃぐじゃのお家に

お邪魔して、打った針を1本ずつ飼い猫から抜かれ、

どんな状況でもベッドがなくても、正確に針を打てるように訓練をしてきました

雨の日はカッパを着きて、50 CCバイクに乗りびちょびちょになりながら、仕事し

夏は全くクーラーをつけてくれない。おばあちゃんと何時間も過ごし、おでこからポタポタってよ。汗を流し

外科のお医者さんの奥さんがぎっくり腰の施術をするときは、隣に座ってじっくり見られ

背中に龍が泳いでいる患者さんは、もしも治んなかったらどうなるんだろうと思いながら

命がけの施術をしたもんです。最初からベッドがあるなんて甘いことを考えてるようでは

そんな根性なしに、針の治療はできないと思います。

まずは腰痛ができるようになれば絶対に食べていけます。80歳になっても100歳になっても、

マッサージや整体は50歳超えると、体がきつくて、引退を考えますが、針は大丈夫です

65歳を超えて再就職するときに、あの時頑張っておいてよかったと思うでしょう

【2年間の実践研修で鍼灸師として独立開業を目指しませんか?】

自律神経や更年期障害、慢性痛など幅広い症状に対応する鍼灸技術を、経験豊富な治療家が直接指導します。研修終了後は独立支援も行います。

2年間の集中研修で、確かな技術と患者さんからの信頼を得る治療家を目指しましょう!

[研修の特長]

 無給研修ですが、実力があれば戦力として給料をお出ししますし 独立開業しても構わないです実践を通して貴重な経験が積めます。経験として免許取り立ての方が針を打てるのを見たことがありませんし 家業が鍼灸師の方でも難しいです

• 女性患者さん中心の治療を学べる環境。男の人に気に入られて男性中心になることもあります。

• 将来の独立開業に役立つ経営ノウハウを提供。基礎的な青色申告の仕方まで、経費のうまい使い方まであらゆるノーハウがあります。

[募集条件]

• 募集対象: 鍼灸師免許をお持ちの方、または開業を目指している方。医師免許持ちの方

• 研修期間: 2年間 できるようになったら給料渡しますが、期待しないでください。独立開業が目的ですから。

• その他: 1日ぼーっとしててもいいんですけど、そんなに拘束しません。8時間位いるだけで、存在が助かります。必ず白衣は着用してください、名札も必ずつけてください。

未来のために、今一歩踏み出しませんか?

お問い合わせは、やの針灸院まで。

【「鍼灸の免許取ったので、マッサージではなく、鍼の仕事がしたい!」あなたの夢を応援します】でも働くところがない。仕方ない。思い切って開業してしまうか。と言って思い切って開業して5,000,000円の借金を抱えて潰れていく鍼灸院をたくさん見てきました。鍼灸院と言うものは残念ながらそういうものです。それが現実です。

じゃあどうすればいいか? 私がやった方法は食べてもいけなくてもいいし、赤字でもいいので都内から呼ばれても全部3500円で交通費自分持ちでその人のお家まで行って治療をしていました。最初は月に1人か2人で1年ぐらい経つと毎週来てくれって言う方がたくさん増えてきて最後は回れなくなるので断ると言うことになり、市役所の前に開業することになりました。

そこで身に付けたことと言うのはいわゆるアトモスフィアです。気ですね。

やっぱり針の訪問を頼む人は動けない位ですから、重症の患者さんが多いです。そして特有の臭いです。患者さんのお家に入ったときに、その人の匂いというのがあって、独特の病気の気を感じるんですけど、これはひどい匂いだなあ、と思うとひどいです。もちろんいつも言ってる方は風邪をひいたらすぐこの人風邪ひいたってわかるし、まず玄関を開けた時点で、病気の強さとかイメージがわかってきます。これは体全体でわかることなので、いちど訪問とか介護とかやってみるとわかりますよ。それで量をこなしていきました。もちろん毎週赤字だったので中国語と中国の本を読みたかったので中国人の会社のお手伝いをしました。そして中国語がベラベラになると思ったんでんですけど、中国の方はとてもスマートで日本語を覚えるスピードがものすごく早いので、同時に働き始めた中国から来た男の子が3ヶ月でも日本語すらすらとしゃべれるようになってしまいました。

「鍼灸師の免許を取ったけど、鍼を打つ機会がない」週に1回の研修会でうまくなるわけがありません。毎日100本以上は患者様の体に入れていかないとそれはうまくなりません。

私は、針を触ることを1年間はやらせてもらえませんでしたが、私の考えとしては覚えるために、針を抜く作業は最初からやってもいいと思います。でも絶対にミスを犯すわけにはいきませんので、とてもそこには厳しいです。もちろんナイーブなところは出血が止まらないことがあります。ほっとくと跡が残りますので、それを絶対に残さないと言う取り方は後々覚えることになります。針の抜け抜き忘れや紛失は出てくるまで床に這いつくばって探してもらいますと言ったら厳しいように見えますが当たり前のことです。オペ看の方がガーゼが1枚ないだけで大変なことになると言うのはご存知の通りです。

要するに、簡単に言うと

野球のバッターが1週間に1回だけ日曜日、草野球をしに行ってもプロになれないのと同じです。

「経験がなくて自信が持てない」それは患者さんに出会う機会がないからです。週に1人や2人本物じゃないサンプルの患者さんを打って高いお金を出して練習しても、看護師さんが採血の練習をするときにお互いにクラスメートとやり合うのとおんなじで血管の細さも全員違いますし、場所も違うので単に採血をすると言う作業もとてもテクニックが要ります。医師は採血ができない人がほとんどです。(ごめんなさい)それは毎日ERとかでルート確保してる医師の方はうまいと言うのはやってるからです。

量より質ではありません。質より量です。人間の体は少しずつひどい時は全然場所が違うし、血管の通る場所や神経の通る場所も、首周りが特に私は難しいと思います。何も考えずに打つと腕神経叢にぶつかってしまうのですが、肩の疾患だったらいいんですけど、横隔神経を動かしたい時とかにはもうちょっと針の先で探りながら進んで当てていきます。ちなみに星状神経ブロックはやらないほうがいいです。専門の医師に任せたほうがいいんですが、専門の医師でも難しいです。

やの針灸院では、実践を通して技術を磨き、患者さんに信頼される鍼灸師を育てます。

実は私は難病に犯されていて、もうすぐ体が動かなくなって、おそらく死ぬでしょう。

できたら、元気なうちに、せっかく覚えた技術を、残そうと思ってYouTubeを始めました

私も先輩の技術を盗んでがんばりました。が余計なことを喋りたくなって全然支離滅裂になるので、私はYouTubeには向いてないなと思いながら作ってます。

• 無給研修で学べる、実践的な治療技術。

• 患者さんから「ありがとう」と言われるやりがいのある環境。

鍼灸師は医師ではなく治療をする哲学者かもしれません

実践の中で、あなたの可能性を広げましょう!

ごめんなさい。電話が故障して留守録が聞けないので最初はメールをください。お名前と自己紹介と年齢と何が得意かと必要より量の情報ください。あなたの情報を教えてください。お互いにお話しできれば良いのですが、電話が全部留守録になってしまうので設定がうまくいきません。必ずかけ直しますので、何時ごろがいいかとか何ちゃダメとかお正月はいいとか 最後は最近会って面白い話を書いていただければ、それが1番のポイントになると思います リクルートみたいな会社にやると半分以上給料が取られちゃうと思うので経由しない方がいいんじゃないかなと思います。まぁ最初は見習いですけどちょっと私の足が不自由なので、電話端末まで追いつきません。よろしくお願いします。あと中国針は普通に打てますか?

元気のある 「患者さんが若い女性が多いので助かります」 できるなら女性鍼灸研究生を募集します 然電話をしてきて話を聞きたいというような根性のある人が好きです

やのひでのり作家としての活動

恥ずかしながら鍼灸で生計を立てられない時は
どんな技術のある先輩も夜中バイトをしてたりします





BK(NHK大阪)ラジオドラマ

  都会の救世主


  作 やのひでのり


インターネット特別バージョン


○登場人物

 私(川田雅美)
 女
 本田
 店員
 医者
 警官
 刑事
 ウエイトレス
 客1
 客2


○  夏の路。
  つくつくぼうしがせわしく鳴く。 
  私(川田雅美)が歩く。
  2、3台の車が通過する音。

N(ナレーション) 私はとてもナイスじゃ
 ない気分だ。私はもうすぐ死ぬ。腸が腐っ
 ているのだ。痛くて痛くてどうしようもな
 い。薬を飲めばしばらくはおさまる。でも
 どうしようもないのだ。
 生きる気力もない。食欲もない。性欲もな
 い。なにもないのだ。
 だからすごくナイスじゃない気分だ。

  商店街の雑踏の音。

N 私は今、運動をしている。運動といって
 もただ歩くだけだ。ただひたすら歩くのだ。
 家からそう遠くない大きな商店街。この辺
 ではショッパーズプラザと呼んでいるらし
 い。そのなかをただひたすら歩くのだ。こ
 こには何でもある。魚屋から電気屋、不動
 産や家具屋、葬儀屋、何から何まですべて
 がそろっている。アーケードになっている
 から雨に濡れることもない。夏はクーラー
 もきいてて涼しい。
 私は歩く。ただひたすら歩く。
 金はない。だから何を買うわけでもない。
 歩かないといけないから歩くのだ。
 そう、きっとこれはリハビリだ。体を動か
 さないと死んでしまいそうだからだ。

  薬屋に入る。瓶を一つ手に取りレジへ。

私 領収書ください。
薬屋 宛名はどういたします?
私 川田です。山、川の川に田んぼの田です。
薬屋 薬代でよろしいですね。
私 はい。

N 風邪薬を一瓶買う。べつに風邪をひいて
 るわけではない。これをのむと腹痛がおさ
 まるのだ。とてもナイスでない気分のとき
 風邪薬はいい。
 私は物書きだ。大学を卒業してあるコンピ
 ューター関係の大手出版社に勤めていた。
 そしてフリーになった。8年間勤めたその
 出版社を退社したのだ。私は小説家になる
 のが夢だった。サラリーマンをやりながら、
 何とかそれを目指していたのだが、どうし
 てもうまくいかない。そこで思い切ってフ
 リーになったのだが・・・。友人のコネで
 それなりの仕事にありつけた。しかし、友
 人が紹介してくれる仕事は決して創造的な
 仕事とは言えなかった。出版社に勤めてい
 るよりはましかもしれないが、私はこんな
 ものを書きたかったわけじゃない。私には
 フリーとしてのプライドがある。サラリー
 マンじゃない。
 いちおう、薬を買うのには領収書をもらう
 ことにしている。確定申告の際、医療費と
 して計上するのだ。フリーの特権だ。
 私は電気屋に入る。全国にチェーン展開を
 している大きな電気屋だ。そういえば先週
 テレビが壊れた。テレビの命なんてばかば
 かしい。ほんの数分で煙をあげて死んでし
 まった。ほんと情けない。
 金縛りにもあった。幽霊やその他の類のも
 のを信じてるわけではないが、とにかく体
 が動かなかったのだ。まいった。金縛りは
 初めてだ。ある本で読んだが金縛りにあう
 ときは、精神と肉体のバランスが悪いとき
 らしい。私は、おそらく精神がまいってる
 のだろう。
 観葉植物を買ってきた。その本によると部
 屋の中の植物はいいらしい。私は買ってき
 たばかりのその鉢をテレビのうえに置いた。
 そして水をやった。
 鉢から水がしみ出して、テレビのなかに流
 れた。煙を立ててテレビは壊れてしまった。
 ああ、ばかばかしい。観葉植物なんて買う
 んじゃなかった。

  電気屋の宣伝のテープの音。
  「半期に一度の××セール! 安い!」
  等と言っている。

N 夏も終わりだ。扇風機の半額セールをや
 っている。テレビもある。ずいぶん安い。
 メイドイン、コーリヤだ。おそらく数年前
 より2、3万は安くなっている。

  複数のテレビゲームの音。

N 私は電気屋を後にしておもちゃ屋に行っ
 た。テレビは買わない。なぜなら私は買い
 物をするために歩いているのではないから
 だ。
 そう、歩くことはリハビリなのだ。死なな
 いための手段なんだ。

  子供のはしゃぐ声。

N ばかな子供達だ。どうしてこんな事をし
 ているのだろう。なにが楽しいんだろう。
 私はそのとき腹部に激痛を感じた。
 まただ。薬だ。薬が必要だ。私は先ほど買
 ったばかりの風邪薬の瓶のふたを開けた。
 ほんとうに子供と言うのは馬鹿な生き物だ。
 しかし、子供がバカであろうとなかろうと
 どうでもいい。私はそんなことよりも、自
 分の腹の方が痛いのだ。世界がどんなによ
 くなったってこの腹痛はどうしようもない
 のだ。痛いのは私の腹なのだ。それが私は
 辛いのだ。
 私はナイスになりたい。ベリーベリーナイ
 スな気分に。だから薬を飲むんだ。
 私はおもちゃ屋の中にある子供用のイスに
 腰掛けた。そして水もなしに数錠飲んだ。

女 はやく逃げて。(エコー)
N 声が聞こえた。
女 早く逃げて。(エコー)
N 今度ははっきり聞き取れた。女の声だ。
 ふん、幻聴か。金縛りは初めてだったが、
 幻聴は初めてじゃない。それに、幻聴とい
 うものはあまりナイスなものとは言えない。
 私は独りでいたいのに無理に話しかけられ
 るからだ。

  母が子供をしかっている。
  子供は大声で泣きわめく。

N ああ、うるさいガキだ。こんなやついな
 くなればいいのに。
女 はやく。
私 え?
N 突然女が現れ私の手をにぎり早くという。
 今度は幻聴じゃない。私は突然の事でなん
 のことか分からない。
女 はやく。逃げるのよ。
私 ・・・。
女 今説明してる場合じゃないの。早く!
N 私は女の言われるままになっていた。彼
 女の表情があまりに真剣だったからだ。
女 走って。ここからできるだけ早く。急い
 で。
N 私は走った。女が私の手を強く握り走る
 からだ。別に逆らう気もなかった。よく見
 ると女はかなりの美人だった。まんざら悪
 い気はしない。私はこのまま走る方がナイ
 スだと思った。走るという行為は久しぶり
 だ。頬にあたる風が気持ちよかった。

  二人の走る足音。

N 1、2分は走ったかもしれない。私は運
 動不足のせいか息切れがしてきた。情けな
 い。
私 ちょっとどこまでいくんだよ。
女 伏せて。
私 え?

  爆音。

N 目の前が真っ暗になった。なにか吹っ飛
 んだらしい。

  「ああ! 痛いよ」と子供の呻く声。
  「助けて」という何人かの弱々しい声。

N 商店街の一部がなにかの爆発で吹っ飛ん
 だらしい。これはかなりひどい。辺りはガ
 ラスの破片が散乱している。ここから見え
 るだけでも5、6人が血まみれになって倒
 れている。こんな様子じゃ、あそこでゲー
 ムをしていた子供達、こうるさい母親もひ
 とたまりもなかっただろう。
女 静かね。
私 え?
女 ね。静かでしょう。さっきはあんなに騒
 がしかったのに。
私 ・・・。
女 どう、ナイスな気分になれた?
私 ナイスって・・・。
N そうだ。この女は何者なんだ。突然現れ
 私の手を―。
女 ベリーナイスでしょう。いいわね。きれ
 いに吹っ飛んだでしょう。
私 あなたはいったい―。
女 たばこ吸う?
私 いや、私は。
女 (たばこの火をつける)助けてあげたん
 だからお礼ぐらい言ったら。
私 あ。
N 私はこの女から助けられたんだ。もし、
 あのまま、あそこにいたら今頃は・・・。
女 それとも助けたのはよけいなお世話だっ
 たかしら。
私 いや。
女 とりあえず、お茶でもする? ここで突
 っ立ってても仕方ないし。
私 救急車、いや、消防車を呼ばないと。
女 とっくに誰かが呼んでるわ。

  喫茶店に入る。
  遠くで救急車のサイレンの音。

女 何にする?
私 何かが爆発したんでしょうか?
女 私はコーヒーでいいわ。あなたは?
私 いったいあなたは・・・。

  ウエイトレスが水を持ってくる。

ウエイトレス ご注文は?
女 ホット。川田さんは?
私 ああ、ミルクティー。
N この女私の名前まで知ってる。誰なんだ。
 そうだ、どこかで会ったこと・・・。
女 ないわよ。
私 え?
女 だから会ったことはないわよ。
私 どうして!? 僕の思ったことを。
女 びっくりした?
私 ええ。
女 最初はみんな驚くわ。でもこんなの当た
 り前よ。川田さん。
私 ・・・・。
女 テレビもったいないことしたわね。駄目
 よ、テレビの上には絶対鉢植えを置いちゃ
 いけないのよ。私の友達もそれでやられち
 ゃったんだから。
私 そうなんですか。
女 そうよ。
N なんなんだこいつは。まるで私の部屋が
 のぞかれているみたいだ。
 テレビが壊れたこと。これは私しか知らな
 いことだ。
私 あなたは誰?
女 誰? (笑う)そうね。・・・あなたの
 命の恩人。
私 そうだけど。でも―。
女 それはあなたがご存じでしょう。
私 しらない。
女 そうかしら。
N 会ったことあるわけない。こんな美人、
 一度会ったら忘れようがない。
女 まあ、いいわ。いずれ分かるから。
私 あの、・・・あなたはテロリスト?
女 (笑う)テロリスト? いきなりね。テ
 ロリストだなんて。
私 いや、ごめんなさい。もう、気が動転し
 ちゃって。なにから聞いたていいか分から
 ないし。
女 ふふ。
私 あの爆発、何だったんでしょう。
女 ガス漏れかなにかでしょう。
私 事故ですか。
女 そうね。
私 でもあなたはあの事故のことを事前に知
 っていた。
女 私、いくとこないのよね。
私 え?
女 泊めてくれる。いいでしょ。私は命の恩
 人なんだから。
私 はあ。
女 今日は何も書けないんでしょう。だから
 散歩してた。大変ね。物書きって仕事は。
私 え、ええ。
女 私を題材にしたらどう。いい物書けるか
 もよ。

  遠くでパトカーのサイレン。

N 女は私の家に来たがっている。このまま
 別れてしまうのは惜しいほどの美人だ。私
 はこの女を家に案内することにした。
 私の家はここから歩いて10分のところに
 ある。小さいけれど庭付き一戸建てだ。も
 ちろん、自分の力で建てたわけじゃない。
 6年前父が死んだときその遺産でたてた家
 だ。


  私の家。
  玄関を開ける。
  カランカランというカウベルの音。

女 素敵な家ね。あれ、これなあに。
私 ああ、犬小屋。
女 犬小屋?
私 でも、もういないよ。
女 そう・・・。
私 死んだんじゃないんだ。でももういない。
N 女は玄関に置かれた犬のケージが気にな
 るらしい。犬はいない。女房が連れていっ
 たからだ。
女 ここ一人で住んでるのよね?
私 そう。
女 広すぎない?
私 そうかもね。
女 想像していた通りね。ほら壁掛けの絵。
 私、絵に描けるくらい分かってたわ。この
 じゅうたんの柄も。そこの扉を開けるとミ
 ッキーマウスのぬいぐるみがあるでしょ。
N 妙なことをいう。女はまるで私の家に来
 たことがあるようだ。

  居間の扉を開ける。

女 素敵な部屋ね。気に入ったわ。コーヒー、
 入れてくださる?
N リビングは20畳ほどの広さだ。中央に
 カウンターがあり、ダイニングと分かれて
 いる。二階には部屋が2つ。かつての女房
 の部屋は書斎にしている。もうひとつは寝
 室だ。女はソファーに腰を下ろした。
女 ねえ。そこのミッキー、大きいわね。私
 が今まで見た中で一番大きいわ。
N 私はコーヒーを入れた。いつものブルー
 マウンテンはきれていた。しかたなく、お
 中元でもらったインド産のコーヒーをあけ
 た。

  コーヒーをドリップする音。

私 テレビみる?
女 いい。テレビは嫌い。
私 そう。
N いい女だ。私は女の隣に座った。コーヒ
 ーの香ばしいにおいとブレンドして女の甘
 い匂いがした。いい匂いだ。グッドだ。ベ
 リーグッドだ。私は我慢できなくなった。
 女を押し倒し、キスをし、そして舌を絡め
 た。
女 あん。
私 ・・・。
N 彼女は全く抵抗しなかった。私は、右手
 で女の左の乳房をもみながら、どうしてこ
 んな事になっているのかふと、考えた。し
 かし、そんな考えもすぐに消えた。私はベ
 リーナイスな気分になっていたからだ。
 ああ、いい気持ちだ。こんなことは初めて
 だ。


  警察。

N そのとき私は目が覚めた。毛布一枚で床
 に寝転がっていた。私は鉄格子の中にいた。
 今は昼間なのだろうか、それとも夜なのだ
 ろうか。全く検討がつかない。目に付く物
 といえば、薄汚れた天井、壁、鉄格子そし
 て低い洋式便器があるだけだ。どうして私
 はこんなところにいるんだろう。ここは刑
 務所なのだろうか、それとも・・・。私は
 いったい何をしたんだろう。
 私はもういちど今日の出来事をおさらいす
 ることにした。まず、起きた時からだ。
 起きたらすごくいやな気分がした。今日も
 また一日が始まってしまうのかと思うと。
 昨日とまったく同じ始まり方だ。とても耐
 えられそうにない。
 とにかくナイスじゃなかった。日はすでに
 高く、時計の針は12時を廻っていた。着
 替えると、すぐに散歩に出た。商店街を歩
 き、そして、電気屋へ寄った。いや、待て
 よ。電気屋の前に、薬局に寄った。そして、
 電気屋へ向かったのだ。そうだ。思いだし
 たぞ。
 私は、あのとき電気屋のレジから金を抜き
 取り走り去ろうとしたんだ。そうしたら、
 店員が私を殴りつけて、・・・・私は、と
 てもイヤな気分だった。そうか。そうだっ
 たのか。


  電気屋の中。

店員 何をお探しでしょうか。
私 テレビなんだけど。
店員 サイズは。
私 みれればいいから。普通の。
店員 BSなどはごらんになりますか。
私 いや。
店員 ワイド画面などございますが
私 普通のでいいから。
店員 18インチでよろしいですか。
私 もうちょっと大きい方がいいかな。
店員 それでしたらこれがお得ですが。
私 ああ、いいですね。これください。
店員 他にも日本製の―。
私 これでいいです。これください。
店員 かしこまりました。ありがとうござい
 ます。では、少々お待ちください。
N 店員は店の奥に在庫をとりにいった。辺
 りには誰もいなくなった。私一人だ。チャ
 ンスだ。私はカウンターの中に入り、レジ
 のキーを回し、トレイを開けた。現金はあ
 まり入ってなかった。しけてやがる。まあ、
 しかたない。街の電気屋にそんなに現金が
 あるわけがない。
 一万円札7枚。5千円札5枚。千円札13
 枚、合計、10万8千円を抜き取り私はず
 らかろうとした。そのとき店員がもどって
 きた。店員は驚き、私の注文したテレビの
 箱を床に落とした。
店員 お客様、・・・そこでなにをしてるん
 です。
私 え? 
店員 どろぼう!(叫ぶ) どろぼう!

  警報機が鳴る。
警報機の音、C.O.

  警察署の中。

N いや、違う。私はどろぼうなんかしてい
 ない。私は電気屋へ行く前にすでに銀行に
 寄り充分な金をおろしていたんだ。盗みな
 んかするはずはない。そう、そうなんだ。
 だからレジからお金なんかもっていくはず
 がない。なぜだ。なぜ、私はここにいるん
 だ。

  コツンコツンと廊下を歩く足音。

警官 川田。出ろ。

  鍵をチャリチャリとさせる音。
  扉が開く。

警官 取り調べだ。こい。
N 制服の警官がいた。そうかやはりここは
 警察だ。私はつかまったんだ。
警官 はやくこい。
N 私は、警官につれられて鉄格子の部屋を
 出た。何もない殺風景な廊下を延々歩き、
 再びなにもない殺風景な部屋へ入れられた。
 そこには私服の刑事らしき男がいた。ああ、
 この風景には見覚えがある。取調室だ。何
 度かテレビドラマでみたことがある。
刑事 さあ、もう一度最初から聞こうか。名
 前は?・・・名前は。・・・早く答えろ!
私 川田雅美です。
刑事 川田雅美ね。女みたいな名前だな。・
 ・・それで生年月日は。
私 38年9月25日生まれです。
私 35歳だな。
N 私は現金を盗んだ覚えはない。金には困
 ってなんかいないんだ。銀行には充分なく
 ら蓄えがある。いや、待てよ。私は強盗し
 たのは電気屋じゃなかった。確か・・・。
刑事 それで、川田。聞いてんのか。
私 はい。
刑事 その、女とはどこで知りあった。
私 女ですか。
刑事 お前と一緒にいた女だよ。名前は何て
 言う。
私 ・・・女?
N 私に女の知り合いなんていない。そうだ
 女房と別れてから私は女なんて・・・。
刑事 あの女は誰だ。
私 誰の事でしょう。
刑事 ふざけんなよ!


  私の家。

N イヤな夢だった。ベリーバッドな夢だ。
 なんでも警察にしょっ引かれ、尋問されて
 いたんだから。・・・まいった。
 私は無性にのどが乾いた。冷蔵庫のなかの
 炭酸飲料をとりだし、飲んだ。暑い。もう
 一度冷房をつけた。

  電話が鳴る。

N 午前4時15分。誰だ、今頃。こんな時
 間に電話してくるなんて。
私 (不機嫌に)はい。
女 ごめんなさい。寝てらした?
私 え、いや。
女 ごめんなさい。こんな時間にかけようと
 思ってなかったんだけど。
私 いや、いいよ。いつでもかけてくれって
 言ったのは僕だから。それでどうしたの?
女 とくに用事はないんだけど。
私 そう・・・・。
女 ごめんなさい。またかけ直す。
私 いいよ。ちょうど起きてたところだから。
女 そう。
私 昼間はごめん。ほんとはそんなつもりじ
 ゃなかったんだけど。
女 いいのよ。
私 女房と別れて、久しぶりなんだ。うちに
 人が来たのは。女性ではほんと初めて―。
女 いいの。本当は私が誘ったんだし。
私 今日、もう一度会えるかな。今度は外で
 会おう。
女 ・・・ええ。どこにする?
私 とりあえず・・・。
N 私は女と都内の某ホテルのロビーで待ち
 合わせをし、そこの最上階のバーで飲むこ とにした。

  ジャズピアノの演奏。

女 きれいね。よく来るの?
私 ああ。たまにここから飛び降りるとすご
 くいい気持ちだろうなって思ったりするよ。
女 そんなこといわないで。
私 いや、ほんとだよ。
女 もったいないわ。
私 え。
女 あなたは今のままじゃおわらない。もっ
 と大きな事がやれる人よ。
私 どうしてそんなこと言えるわけ。
女 私にはわかるんだもの。私には分かる。
 あなたにはそういう力があるのよ。
私 力? なんのこと? そんなもの僕には
 ないよ。僕には物書きの才能がないんだ。
 それに情熱もね。
女 知ってるわ。

 間。

私 あなた、いったい誰? どうして僕とこ
 こで飲んでるの? どうして見も知らない
 僕なんかと話してて平気なの?  
女 見も知らない? もう充分知りあったじ
 ゃない。
私 それは・・・。でも僕は君のことを何も
 知らない。それでこうやって一緒にいて、
 ・・変だと思わないか。
女 思わないわ。
私 変だよ。だって僕はうれしいかもしれな
 いけど。君はなにも得しないだろ。
女 そんなことないわよ。私ももらう物をも
 らうから。
私 ・・お金・・はないよ。
女 お金?(笑う)そんなもの。もっといい
 物をもらうわ。
私 いいもの?
女 そう、もらうわよ。
私 ・・・。

  間。

N 私は初めて彼女に対して恐怖を抱いた。
私 ・・・そういえばどうして、君はうちの
 電話番号を知ってるの? 教えてないのに。
女 調べれば分かるわ。
私 君の電話番号、教えてくれる?。
女 いいわよ。
私 本当に。
女 ええ、何か書く物?
私 ああ。
N 女はコースターの裏側にペンで走り書きした。
女 はい。これでいいでしょ。いつでもかけ
 てきて。
私 ああ。

  「オールオブミー」が流れる。

N オールオブミーだ。私の全て。ジャズの
 スタンダード曲だ。私は彼女を抱きたくな
 った。なぜだか彼女は私の全てのような気
 がしてきたからだ。
 気がつくと私は、ホテルの部屋で彼女とベ
 ットを共にしていた。

  F.O. 「オールオブミー」


  取調室。

刑事 それで、その女はいったい誰なんだ。
私 わかりません。
刑事 お前、わけもわからんやつと寝たのか。
私 はい。
刑事 け、いいな。うらやましいよ。いい女
 じゃねえか。
私 彼女を知ってるんですか。
刑事 知ってるんですか? 知ってに決まっ
 てるだろ。
私 どうして。
刑事 どうして? おかしな事聞くなあ。
私 彼女はどこにいるんです。
刑事 え? お前の隣にいるよ。
私 隣に? 隣にって・・・。
刑事 この部屋のとなり。お前と同じ場所に
 座ってるよ。
私 捕まったんですか。
刑事 捕まったんですかって? まあ、いい
 や。あぁあ、長くなりそうだな。
私 刑事さん、教えてください。僕は何をや
 ったんでしょう。
刑事 ほんとにおぼえてないのか。
私 ええ。
刑事 まいったな。
私 まさか。爆弾を?
刑事 爆弾?
私 爆弾を仕掛けたってことないですよね。
刑事 爆弾? こんどは爆弾か?
私 違うんですか。
刑事 もういいよ。これじゃ堂々巡りだ。今
 日はこのくらいにしとこう。俺も疲れた。
 明日は早いぞ。ちゃんと寝とけよ。
(警官に)おい。こいつを元に戻しといてく
 れ。
警官 はい。


  都内、繁華街。雑踏の音。

本田 ここでいいんですか。
私 ああ、ここに1時だ。
本田 ちょっと早すぎましたかね。
私 いや、みつかるといけないから。
本田 僕がいるとまずいんですか。
私 そんなのことないけど。念のためね。
本田 本当に写真撮っても構いませんね。
私 ああ、頼む。
本田 楽しみだなあ。どんな人なんだろう。
私 とにかく美人なんだ。頼むよ。
本田 分かりました。じゃあ僕、ちょっと離
 れてスタンバってますから。
N 彼の名前は本田智則。私が勤めていた出
 版社の後輩カメラマンだ。私が彼女の話を
 したら、興味を持ってきた。是非、その彼
 女に会いたいと言う。
 実は私も本田に彼女を会わせたかった。最
 近私は自分自身に自信がなかった。彼女に
 のめり込めばのめり込むほど彼女の実体が
 つかめなかったからだ。そして疑いを持っ
 た。もしかして彼女は最初から存在しない
 かもしれない、という疑いだ。そう、彼女
 は私が作り出した妄想なのかもしれない。
 だから、後輩の本田に頼んでここで私と一
 緒にいる彼女の写真を撮ってくれるように
 頼んだのだ。彼女の存在が第三者本田と、
 さらには写真で確認されれば少なくとも彼
 女は私の妄想ではないことになる。

  1時を告げる時計台のチャイムが鳴る。

本田 来ませんね。
私 へんだな。時間には正確な人なのに。
本田 僕がこんな大きなカメラ持ってるんで
 警戒したんですかね。
私 まさか。お前が来る事なんて向こうは知
 らないはずだ。
本田 そうですか? もし、川田さんの話が
 ほんとだったらその女の人、僕が何しに来
 たか分かるんじゃないですか。予知能力み
 たいなやつで。
私 そうかな。
N 全てが半信半疑だ。本田はUFOとか占
 いとか信じてる奴だ。しかし、私はそうで
 はなかった。少なくとも彼女と逢うまでは。

   時計台のチャイムが鳴る。

本田 15分経ちました。まだですかね。
私 ああ。もうちょっと待ってくれ。
N 私は焦っていた。なぜならもしここで彼
 女が現れなかったら。私はとうとう気が狂
 ってしまったのかもしれない。そうだ、私
 は仕事のいきづまりとその焦りで、彼女を
 作り出したのだ。
 ありもしない女から助けられ、ありもしな
 い女にキスをし、ありもしない女に好意を
 抱き始めている。
 しかし、私にはとても幻とは思えない。彼
 女との記憶ははっきりしている。今まで彼
 女には数回会っている。彼女は妄想なんか
 じゃない。

   時計台のチャイムが鳴る。

N 午後1時30分を告げるチャイムがなっ
 た。約束の時間からもう30分が経過して
 いる。
本田 僕、そろそろ会社に戻らないと、一応
 昼飯喰うって言って出てきただけですから。
私 もうちょっと待ってくれ。もうすぐ来る
 と思うんだ。
本田 僕も会いたいですけどね。今日は彼女、
 なにか急用ができたんじゃないですか。
私 そうかな。
本田 たぶん、そうですよ。時間に正確な人
 なんでしょ。
私 そうなんだ。いつもだったら1分も遅れ
 ずに来る。
本田 そうでしょ。だったら急用ですよ。
私 ・・・。
本田 また連絡してください。僕、興味があ
 りますから。
私 すまんな。
本田 いいですよ。また昼にここで待ち合わ
 せしてください。会社近くですから、すぐ
 来れますから。
私 ごめん。今度おごるよ。
本田 先輩も、がんばってください。仕事。
 みんな期待してます。
私 ああ。みんなによろしく。
本田 じゃ、すみません。僕からも電話しま
 す。
私 ああ。
N 本田はいそいそと去っていった。その直
 後だ。彼女が現れたのは。
女 ごめんなさい。(息を切らせながら)
 電車が遅れちゃったみたいで。
私 そうなの。
女 ごめんなさい。お昼まだでしょ。
私 ああ。
女 いきましょ。
N 写真は撮れなかった。私はその後何度か
 本田に写真を依頼した。しかし、彼女はそ
 のときに限って現れなかった。やはり本田
 が来るのを事前に察知したのか。それとも、
 もともと彼女なんてこの世に存在しなかっ
 たのか。


  私の家。
  電話をコールする音、10回。

N でない。彼女がコースターに書いた電話
 番号にかけている。やはりあれは偽物だっ
 たか。いや、違う。今は午前4時15分。
 普通の人だったら眠っている時刻だ。電話
 に出られるはずがない。私は自分で納得し
 受話器を置こうとした。

  電話がつながる音。

女 はい。
私 あ。
女 川田さんね。
私 あの。
女 ね、ちゃんとかかったでしょう。
私 はい。
女 うその電話番号教えられたとおもった?
私 まさか。
女 思ったでしょう。
私 ・・・。
女 私に嘘はつけないわよ。
私 ・・・。
女 さて、今日はどうしようか。
私 今日?
女 そう、今日よ。
私 うん。あんまり気分が良くないんだ。眠
 れなくて。
女 じゃあ、銀行強盗でもしようか。
私 銀行強盗? あまり気がすすまないな。
女 大丈夫よ。本当にすっとするんだから。
N 彼女は私に銀行強盗をすすめた。最初は
 冗談かと思ったが話が進む度に彼女が本気
 だということがわかった。私は彼女の虜だ
 った。彼女がやろうと言うことには背けな
 かった。
 なぜなら、彼女と一緒にいるとそれはそれ
 はベリーナイスな気分になれるからだ。今
 まで味わったことのないほどのナイスな気
 分に。
 だから私は銀行強盗をした。


  銀行。

  「ピンポーン、27番の番号札をお持ち
  のお客様3番窓口までどうぞ」

私 緊張するな。
女 大丈夫よ。あなたならできるわ。きっと
 うまくいく。
私 よし。
女 そのいきよ。がんばって。私はここにい
 るから。

  「27番の方、いらっしゃいますか」

N 私は懐の包丁を握りしめながら女子行員
 のいる3番窓口まで歩みよった。
私 金をだせ。
銀行員 はい?
私 これが見えるだろ。強盗だよ。
銀行員 はい。
私 もたもたするな。
お客1 ああ!(叫ぶ)
N まずい。客が気づいた。
お客1 ああ! 誰か!
私 何だよ。騒ぐなよ。
お客2 きゃあ!(叫ぶ)
私 騒ぐな! おとなしくしないとぶっ殺す
 ぞ!

  人々の悲鳴。
  非常ベルが鳴る。

私 畜生! 
N なんてことだ!
 私は彼女のほうを見た。彼女は冷ややかな
 目で私を見つめていた。私はどうしていい
 かわからなかった。私はその場に呆然と突
 っ立っているしかなかった。今更ながら後
 悔した。私は何をやっていたんだろう。今
 どき包丁一本で銀行強盗が成功するわけな
 んかないじゃないか。どうしてこんなこと
 になったんだろう。
 とてもとてもバッドな気分だった。
 彼女は私に近づき小さな声で言った。
女 最低ね。
N 私は頭をなぐられた気分だった。いや、
 殴られた。警備員が私の頭を殴ったんだ。
 金属の警棒でなぐられた私の後頭部は陥没
 し私は意識を失った。


  病室。

医者 川田さん。川田さん。
私 ここは。
医者 気がつきましたか。
私 ああ。
N 私は病院のベッドに寝ていた。頭部に激
 痛が走った。そうだ。私は殴られたんだ。
医者 まだ動かない方がいい。
私 ああ。
女 大したことなくてよかったわね。
N 女がそこにいた。私の頭には包帯が巻か
 れていた。
私 どうしてここに。
女 あなたが倒れたって聞いたからびっくり
 したてかけつけたのよ。部長さんもね。さ
 っきまでいらしてたのよ。
私 ああ、そうなの。
女 仕事しすぎよ。あなた、最近寝てないみ
 たいだかから。
医者 意識が戻られてよかった。もう少し経
 ったらまた様子をうかがいます。では、奥
 さん、よろしく。
女 すみません、いろいろお手数かけます。

  医者が去る。

私 ああ。(呻く)
女 駄目よ、動いちゃ。倒れたときにね。頭
 を強く打ったらしいの。
私 そうか。そうだったのか。
女 そうそう、デザートあるけど食べる?
  さっき営業部の女の子3人もお見舞いに来
 てくれてね。
私 ああ。
女 残念ね。女の子に会えなくて。あなたず
 っと眠ってたから。ほんと、もてもてね。
私 それであなたは。
女 え?
私 さっきから分からないんだけど。もしか
 してあなたは私の―。
女 なにいってるの?
私 ごめんなさい。
女 ほんと頭をつよく打ったみたいね。もう
 一度看護婦さん呼ばびましょうね。
N 彼女は私の枕元にあるナースコールのボ
 タンを押した。すぐに男が二人入ってきた。
 制服の警官と刑事だ。あのとき、取調室に
 いた二人だ。どうしてだ。どうして奴らが
 ここに来るんだ。
女 あの。
刑事 お気づきになられたみたいですね。奥
 さん、事情聴取いいですか。すぐにすみま
 すから。
私 あの。
刑事 いや、手続きですから。ほんの数分で
 終わりますから。いいですね。
私 ・・・はい。
刑事 あなたの名前は。
私 川田。川田雅美です。
刑事 雅美? 女性のような名前ですね。
私 はあ。
刑事 生年月日は?
私 38年9月25日です。
刑事 というと。
私 35ですが。
刑事 住所は?
私 東京都・・・・。
N 刑事はほんの数分だといったが、私への
 事情聴取は30分は続いたと思う。なんで
 も私が倒れていたのは会社のある方向とは
 全く違う郊外のある商店街の中だったらし
 い。刑事たち頭をひねりながら帰っていっ
 た。それもそのはずだ。とうの本人が何も
 分かっていないのだから。
 私は疲れた。もう、誰とも話したくない。
 だから寝ることにした。私は女房に言った。
私 おい。カーテンを閉めてくれないか。も
 う、休む。
女 そう、カーテンね。

  女はカーテンを閉める。
  そしてドアの鍵を閉める。

私 ドアの鍵は閉めなくていいよ。看護婦さ
 んも出入りするから。
女 いいのよ。これで。
私 え?
女 さあ、芝居は終わりよ。役立たず。
私 なんだって? 何て言った?
女 役立たずっていったのよ。
私 君はいったい。
女 ほんと使えないやつね、あなたは。最低
 よ。
私 ・・・最低。
女 こんどは後がないわよ。ちゃんとやるの
 よ。分かってるでしょう。ほんと最低なん
 だから。
私 最低、最低・・・ああ!
女 こんどしくじると死ぬわよ。
私 頭が頭がいたい! 先生を呼んでくれ。
女 自分で呼んだら? (笑う)
私 君はいったい誰なんだ。何でもやる!
  許してくれ! 君は僕の・・僕の、何なん
 だ!
女 (不気味に優しく)あなたには才能があ
 るの。まだそれに気がついてないのよ。い
 い、私の言うことを聞くのよ。私が才能を
 伸ばしてあげる。
N 私は腹が痛くなった。そう、いつもの病
 気だ。薬がいる。風邪薬だ。早く風邪薬を
 飲まないと。私の鞄はどこだ。そこに入っ
 てるはずだ。早くあれを飲まないと! 
 ベリーバッドだ!


  都内、駅前広場。

N 昼下がりの日曜日の駅前広場、私はベン
 チにこしかける。
 しかし、ここは決してナイスな場所ではな
 い。人通りは多いし、車のエンジンもせわ
 しい。 私の右隣に男が座っている。年齢は
 25、6歳ぐらいだろうか。日に焼けた肌
 が遊び人風だ。おそらく待ち合わせだろう。
 右足を小刻みに上下にうごかしている。男
 は2本目の煙草に火をつける。騒音情報が
 52ホンを示している。
 男の貧乏ゆすりが止まった。待ち合わせの
 相手がきたようだ。女だ。想像していた通
 りのバカ女だ。体のいたるところに貴金属
 がぶら下がる。ミニスカートに長い髪、日
 に焼けた肌。女は男の3、4m程手前で立
 ち止まり右手を縦にして「ごめん」と謝る
 ジェスチャーをした。「遅いよ」というと
 男はゆっくり立ち上がり女の腰に手を回し、
 そして二人は去っていった。
 ふんいい気なもんだ。何も考えずに生きて
 る馬鹿どもよ。
 死んでしまえ!(エコー)
 あと10分もすれば、この駅前広場はきれ
 いな更地になるだろう。
 なぜ、そんなことが分かるのかって?
 それは、私がテロリストだからだ。それも、
 普通のテロリストではない。完全にフリー
 なテロリストだ。だからどこかの組織に属
 しているわけではない。政治的な思想など
 まるでないのだ。
 今日私はこの駅前広場の中心の花壇の下に
 小型時限爆弾をしかけた。小型といっても
 破壊力はすさまじい。プラスチック爆弾だ。
 爆弾は彼女が届けてくれる。相変わらずい
 い女だ。
 以前私はあるデパートの玩具売り場にこれ
 と同じ物を仕掛けたことがある。一瞬のう
 ちになにもなくなった。子供達の悲鳴さえ
 も聴こえない。プラスチック製の玩具は当
 然のこと、ショーウィンドウのガラスさえ
 も解けて形を失った。
生きとし生ける物、それだけじゃない。形
 のある物すべてが原点に戻るのだ。真っ白
 な灰になるのだ。きれいだ。真っ白な灰は
 きれいだ。
 何もない。争いもない。欲望もない。
 私は、社会に貢献しているのだ。この腐り
 きった世界から抜け出せずに苦しんでいる
 者達を解放している、救世主なのだ。
 仕事のあと彼女はほめてくれた。あの日の
 銀行での失敗を許してくれたのだ。私は彼
 女にとって最低な男から最高な男になった。
 彼女はとてもいい女だ。
 ナイスだ。ベリーベリーナイスだ。
 今度の仕事もおそらく成功だ。もうすぐ分
 かる。
 もうすぐ爆発の時刻だ。そろそろ立ち去る
 とするか。私は、ベンチから立ち上がろう
 とした。
 いやまてよ。私はふと思った。今回はこの
 ままここにいてみようか。このまま灰にな
 るのも悪くはないかもしれない。灰になっ
 た私を彼女はなんと言うんだろう。彼女は
 ほめてくれるのだろうか。それとも「最低」
 と言うのだろうか。
 彼女の存在が本当だったら、私はきっと灰
 になれる。私は彼女を愛している。彼女は
 妄想じゃない。もし私が灰になることがで
 きれば私は正常だ。
 もうすぐ爆発の時刻だ。
 早くナイスな気分になりたい。

             ―終―